平凡な人妻が不倫中毒になるまで(1)
彼女と会うのは一か月ぶりだ。
旦那さんには悪いと思うが、やはり他人の妻を寝取るのは興奮する。
彼女にとってもそれは同じようで、昨晩は家の中で自撮りした下着姿の写真を送ってきた。なんでも今日のために購入したらしい。
『旦那さんが家族のために働いてる間、知紗さんはこの卑猥な下着を着て不倫相手とホテルでセックスするんだね』
そう返信してあげると、今度はぐちゃぐちゃに濡れたマンコに指を挿入している動画を送ってきた。
『もう濡れ濡れだね』
『早く会いたい、わたしをめちゃくちゃにして……』
『そんなに俺に抱かれたい? 旦那さんは満足させてくれないの?』
『いいの、もうあの人のおちんちんじゃ満足できない。あなたのしか欲しくないの』
『出会った頃からは考えられないくらい淫乱になったよね、旦那さんは知紗さんがこんなにイヤらしい女だって気づいてないのかな』
『多分、気付いてないと思う。あの人、ずっとわたしに対して義務感しかないから』
『知紗さん、愛してるよ』
『わたしも愛してる。ねえ、早く会いたいよ……』
背徳感を刺激するような言葉を与えると、彼女は悦んで堕ちていく。完全に不倫が癖になってしまっているようだ。
それはそれで都合がいい。彼女はこの関係を手放さないだろう。おそらく、旦那と別れて俺と一緒になりたい、みたいな面倒なことを言い出す心配もない。彼女が嵌まっているのは俺ではなく、あくまでも俺との不貞行為であり、家族を裏切る背徳感なのだから。
「公平さんお待たせ、待った?」
「いや、今来たとこ」
駅前のロータリーで待っていると知紗さんがやって来た。
彼女は、暗めの茶色の髪に可愛い系の顔立ちで、見た目からは年齢が判らないくらい肌も綺麗だ。俺と密会するためにお洒落をして化粧をした彼女は一段と可愛くらしく見える。
旦那さんとのセックス回数は減っているそうだが、俺との不貞行為で性欲を解消しているせいか妙な色気まである。会う度にエロくなっている気がしていたが、今回は前回のデートから時間が空いたためか、いつも以上に彼女の女の部分が男を欲しているのが、その仕草や表情から感じられた。
「じゃあ、行こっか」
彼女はそう言ってはにかむと、俺の腕に抱き着いた。俺もまた彼女の腰に手を回す。彼女はスカートの中でわずかに太ももを擦りあわせると、嬉しそうに微笑んで俺を見上げた。その発情した笑顔は、旦那さんや子供にはとても見せられないものだ。
「どこに行きたい?」
「ラブホ」
俺が尋ねると彼女は即答した。そして、俺の耳元に顔を近付けると、色っぽい吐息を吹きかけてくる。
「……私のここに、公平さんのが欲しいな」
そんな台詞を口にしながら腰をいやらしくくねらせている彼女のお尻を撫でながら、俺たちは車でホテルへと向かうことにした。
◆◆◆
初めて知紗さんと出会ったのは二年前になる。
場所は隣町にある大型のショッピングモールだった。
そこには元々とある出会い系アプリで知り合った女性との待ち合わせで訪れていたのだが、駐車場で待っていた女の容姿も年齢も国籍も、写真とはあまりにかけ離れていたため、その女性は見なかったことにしてドタキャンされたと判断したのだ。
とはいえそうなると困ったのは、すっかり女性と仲睦まじく時間をすごすつもりでいた俺の心と身体である。
アプリで当該女性をブロックしながら、このあとどうしようかなあ、と車の中からぼんやり駐車場を眺めていると、一台の軽自動車が入ってきて近くに駐車した。
運転していたのは40代後半くらいの女性で、助手席には30代くらいの男性が座っている。
二人は車の中で二言三言、言葉を交わしてから一緒に車を降りた。そして男性の方はおそらく彼自身の車へと向かい、女性の方はショッピングモールの入口へと向かって歩いていく。
とはいえ二人の会話する際の距離感や、なにより時間を考えると、おそらく男女の身体の関係にまでは至ってなさそうだ。大方、初めて実際に会ってランチを一緒にしました、といったところだろう。
俺は特に深い考えもなく、彼女の後を追ってみることにした。なんとなく彼女の人となりに興味がわいたのだ。
彼女は駐車場からモール内へと入ると、特に目的もないようにぶらぶらと歩いていた。俺はバレないように距離をとりつつ彼女のあとをつける。彼女は特に周囲を警戒することもなく、お洒落な雑貨屋や服屋の商品を興味深そうに眺めていた。
そうしてしばらく歩いた後、彼女はとあるカフェの前で立ち止まると中の様子をうかがっているようだった。
時刻は午後二時過ぎで、ちょうどランチの客もはけて店内が空いてきた頃だ。彼女は周囲を見回して人通りが少ないことを確認すると、ゆっくりとカフェの中に入った。俺も少し迷ったがそのすぐ後ろに続いて店に入る。
窓際の席に座る彼女の背中が見える位置に座った俺は、彼女に注文が決まったタイミングで話しかけることにした。
「コーヒーとガトーショコラのセットで」
店員が注文を繰り返してから去っていく。その間も彼女は特に周囲を気にする様子もなく窓の外をぼんやりと眺めていた。
「すみません、こちら相席してもいいですか?」
無遠慮にも程があるが、俺はそう彼女に声をかけた。
店内には空席もあるので、普通に考えてわざわざ相席を申し出て来る男など不審者の極みだ。俺なら絶対に断る。
しかし、それでも今の彼女なら受け入れてしまいそうな予感があった。
ショッピングモールに入ってからの彼女を見ていて、なんとなく、彼女は今日、アバンチュールを期待していたのではないか、と思ったのだ。
先程の男性となぜ別れて行動しているのか、俺には知る由もない。少なくとも車の中で話す様子は、互いに憎からず思っているように見えた。
もしかすると興味本位で初めて出会い系に登録してはみたものの、実際に会って体の関係を持つとなると躊躇いを感じたのかもしれない。
ありそうな話だ。
それなら俺はたぶん彼女と仲良くなれるだろう。
何しろ待ち合わせ相手に肩透かしをくらったことに関しては、俺も彼女と同じなのだから。
「あ、はい。大丈夫です」
彼女は少し驚いた様子を見せたが、特に警戒することもなくそう答えた。
「ありがとうございます」
俺は礼を言って彼女の向かいの席に座った。彼女は不思議そうな顔をして俺を見ている。
「あの、どうして私に声をかけたんですか? 自分で言うのも変ですけど、特に面白みもないと思いますよ……?」
彼女は少しバツが悪そうにそう言った。やはり俺が突然声をかけたことへの不信感はあったようだ。
それでも嫌な顔一つせずこうして対応してくれるのだから、根が良い人なのだろう。
「すみません急に声かけて。実は今日待ち合わせしてたんですけど、ドタキャンされちゃって」
俺は素直にそう答えることにした。嘘は言っていない。俺が約束をした女性は現れなかった。
すると彼女はさらに驚いた顔をして言う。
「え、ドタキャンですか? それは災難でしたね。……でも、だとしてもどうして私に?」
「うまく言えないんですけど……」
俺はそこで少し言葉を止めると、彼女をじっと見つめる。彼女の瞳には俺に対する警戒の色が浮かんでいた。嫌がることを強要するつもりはないが、まあ俺の目つきは少し悪いかもしれない。俺はぱっと笑顔になると彼女に言った。
「もしかしたらあなたとなら一緒に時間をすごせるかなと思って」
「……え?」
彼女はさらに困惑した顔をした。しかしその表情には、先ほどまでは無かった好奇心や期待といったものも含まれているような気がした。
「思い違いならすみません。でもあなたも僕と一緒なんじゃないかなって感じたんです。誰かと会いたくて誰かを探してるんじゃないですか?」
「……」
彼女は少し沈黙したあとに、小さく頷いた。どうやら俺の予想は当たっていたらしい。俺は彼女に自分のスマホを見せた。
「連絡先の交換しましょう」
「……え?」
「よかったら一緒に遊びませんか? 俺でよければですけど」
俺がそう言うと、彼女の瞳には明らかな動揺の色が浮かんでいた。そしてしばらく逡巡したあとに口を開く。その口調は先ほどまでの敬語ではなく砕けたものだった。
「……本当に私でいいの?」
「もちろん」
俺がそう言うと彼女は少しだけ逡巡してスマホを俺に渡してきた。アプリを操作してお互いの連絡先を交換する。
「ありがとう、嬉しいよ」
俺がそう言うと、彼女ははにかみながら「私も」と答えた。その表情はとても可愛らしいもので、思わず彼女に見惚れてしまった。
それから俺たちはお互いのことを話し、一緒にカフェを出て、ショッピングモールを後にして、俺の車でドライブをして、ホテルに入り、出会ったその日にセックスをした。
(続く)