職場のパート主婦の肉体と不倫に嵌まった(3)

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 その後の仕事中は気まずい雰囲気が続いたが、どうにか無事に終わらせることができた。今までの人生で女性に迫られた経験などない俺にとっては衝撃的すぎる一日だった。しかも相手は美人だしスタイルも良いし性格も良さそうな女性だ。そんな相手から好意を寄せられるというのは素直に嬉しいと思う反面、戸惑いや不安もある。

「お疲れさまです。お先に失礼します」
 スタッフルームで挨拶すると、姿は見えないがどこからか店長の「はーい」という声が聞こえた。藤田さんも帰り支度を終えているとは思うが姿は見えない。帰るタイミングで彼女と顔を合わせずにすんで少しほっとする。今彼女と会ったら、どんな顔をすればいいか分からなかった。

「中村さん」
 だが、そんな俺の甘い考えはすぐに打ち砕かれる。後ろから声をかけられ振り向くと、そこには藤田さんが立っていた。彼女は申し訳なさそうな表情でこちらを見ている。その姿を見ていると胸が高鳴るのを感じたが、それを悟られないよう平静を装った。俺にはその感情が、彼女への好意や欲情によるものなのか、それとも違和感や警戒心によるものなのか自分でも判らなかったのだ。
「……お疲れさまでした」
 俺はそれだけ言って立ち去ろうとするが、再び彼女に呼び止められる。
「待ってください! お話があるんです」
 藤田さんは真剣な眼差しで見つめてくる。その視線に射抜かれると動けなくなってしまうようだった。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

「……何でしょうか?」
 俺は仕方なく立ち止まり尋ねる。すると彼女は少し躊躇うような素振りを見せながらも口を開いた。
「あの……この後、お暇ですか? もし良かったら、一緒にお食事でもしませんか?」
 その提案に俺は戸惑うしかなかった。まさか彼女の方から誘ってくるとは予想していなかったからだ。彼女の意図や価値観、倫理観が理解できない。なぜこうも平然と誘えるのだろうか。俺は急に藤田さんが得体のしれない存在になったかのように感じる。まるで甘い匂いで男を誘い捕食する植物の様だ。

「えっと……どうしてですか?」俺は思わず聞き返す。すると彼女は少し恥ずかしそうに俯いた後、上目遣いで俺を見たまま言った。
「……私、もっと中村さんと仲良くなりたいんです。だから二人でお出かけして親睦を深めたいなって」
 藤田さんはもじもじしながら言う。その仕草はとても可愛らしく見えたが、同時にあざとさも感じられた。だがそれでも彼女の魅力には抗えないものがあるのも事実だ。悩んでいる俺に対して、さらに彼女は誘惑の言葉を続ける。

「一緒に働く同僚ですし、お互いのことをもっとよく知った方がいいと思うんです。面接のときに中村さんも私のことを知りたいと仰いましたよね? 今は中村さんのおかげで毎日楽しく働かせてもらっていますが、もしも考え方や意見のすれ違いで険悪になったら、勤めにくくなって私も辞めないといけなくなるかもしれませんし……」
 彼女の言葉はまるで脅迫のように聞こえた。確かに、せっかく採用できて仕事の覚えもいい、彼女に辞められると痛手ではあるのだ。

「それは、そうかもしれないですけど……」
 俺が言い淀んでいると、彼女は目を輝かせて詰め寄ってきた。その勢いに圧倒されそうになるが、何とか踏み止まる。
「だからお互いを良く知るためにも……ね?」
 そう言って藤田さんは俺の手を取ると軽く握る。その手つきはとても優しく温かかった。まるで恋人同士のような距離感だ。俺は戸惑いながらも彼女の手を振りほどくことができなかった。

「……わかりました。いいですよ」
 俺は観念して承諾する。ここで断ったところで状況が変わるわけでもないだろうし、むしろ悪化する可能性すらある。ならば彼女について行く方が賢明だと判断したのだ。それに俺としても彼女が嫌いなわけでは決してない。ただ、その距離感に戸惑うだけで。
「やった! 嬉しいです!」彼女は満面の笑みを浮かべていた。その笑顔を見ているとこちらまで幸せな気分になると同時に、これから起こるであろう出来事への不安も募っていくのだった。

◆◆◆

 二人とも電車通勤なので、俺たちはそのまま並んで帰路につく。
 さてどこで食事をしたものだろうかと、考えていると、藤田さんが「私が誘ったので私に案内させてください」と提案したので、彼女について歩くことにした。しばらく歩くと、小さな洋食屋の前で立ち止まる。どうやらここが目的地らしい。店構えはシンプルながらも清潔感があり好感が持てる。俺は普通の店だなと思いほっとする。

 中に入ると店員に案内され席に着く。テーブルや椅子などの調度品はアンティーク風に統一されており落ち着いた雰囲気だ。メニューを見ると料理の写真が載っておりどれも美味しそうに見える。俺はその中からオムライスを注文した。藤田さんはハンバーグセットを頼んでいたようだ。
 料理が来るまでの間、会話は特になかったが不思議と気まずくはなかった。むしろ沈黙の時間さえも心地よく感じられたほどだ。ただ、俺の中にある彼女への苦手意識は薄れていないようで、落ち着かない気分ではあったが。

「中村さん、昼間はあんなことをしてしまい申し訳ありませんでした」ふいに彼女が頭を下げる。
「いえ、大丈夫です。もう気にしていませんから」
 俺は慌てて手を振り反射的にそう答えた。もちろん嘘だ。あのまま流されていたら取り返しのつかないことになっていたかもしれないのだから。
「ですがやはり申し訳ないので何かお詫びをさせてください」藤田さんは真剣な眼差しで見つめてくる。その瞳に吸い込まれそうになりながらも何とか耐えた。

「本当に大丈夫です。俺としてもあの出来事で藤田さんとぎくしゃくするのだけは避けたかったので、これまで通りにしていただければ、それだけで十分です」
「そうですか? 本当に良いんですか?」藤田さんは念を押すように聞いてくる。その口調にはどこか残念そうな響きがあったような気がしたが、きっと気のせいだろうと思い込むことにした。
「はい。もちろんです」俺は笑顔で答えた。
「わかりました。でも、何かありましたら遠慮なく仰ってくださいね」藤田さんは納得したようで微笑んでくれた。俺もつられて笑顔になるが、どこかぎこちないものになってしまう。その理由は自分でもよくわからなかったが、とにかく今はこの場を乗り切ることだけを考えることにした。

 その後運ばれてきた料理を食べ始めると会話も自然と生まれてくるようになり、食事が終わる頃には普通に話せるようになっていた。やはり沈黙の時間があっても気まずくならないのは良いことだ。それがたとえ表面上だけのものだとしても。
 会計を済ませ店を出る頃にはすっかり日も暮れていた。
「すっかり暗くなりましたね。女性の一人歩きは危ないですしタクシーを呼びましょうか」
 俺がそう提案すると、藤田さんは慌てて否定する。
「いえ、そんな……大丈夫です」
「でも暗い夜道ですし、さすがに……」と俺は渋る。
「本当に大丈夫なんです。ここから歩いてすぐですし。タクシーなんて呼んだら逆に運転手さんに申し訳ないくらいなんですよ」
 そう言って笑顔を浮かべる彼女に、俺も警戒心が緩んでいたのかもしれない。

「そうなんですね、ではせめてご自宅の近くまで送らせてもらえませんか」
俺がそう言うと彼女は少し驚いたような表情を見せた後、嬉しそうに微笑んだ。
「ではお言葉に甘えてもいいですか? お気持ちだけで十分嬉しいですけど」
 こうして俺は藤田さんを送ることになったのだが、歩くと本当にすぐ彼女の自宅に到着したので拍子抜けした。かなり立派な建物で、入り口にはセキュリティシステムもあるようだ。もしかすると、いいところのお嬢様なのかなどと思いながらも彼女に別れを告げる。

「それでは失礼します。今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。また明日からお仕事よろしくお願いします」
 そう言って綺麗にお辞儀する藤田さんの体が何かの拍子でよろめき、俺は慌てて抱きとめて支える。
「おっと、大丈夫でしたか?」俺は慌てて言うが彼女の反応がない。顔をのぞき込むと真っ赤になり固まっていた。まるで熱でもあるかのように見えたので心配になる。

「あの、本当に大丈夫ですか? 顔が赤いですけど……」俺が言うと藤田さんはビクッとして一歩後退る。その拍子にバランスを崩し転びそうになったため再び抱き抱える形になった。その柔らかい感触にドキッとすると同時に罪悪感を感じる。彼女は抵抗せずされるがままになっていたがやがて離れると、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「ごめんなさい……足を少し挫いてしまったようで。家の中まで支えてくれませんか?」
 藤田さんはおずおずといった感じで言う。その様子はまるで小動物のようで可愛らしいと思えた。俺は了承すると彼女の肩を抱いて支えながら玄関まで連れて行ってあげた。何とか靴を脱ぎ終えると、そのまま彼女の案内で寝室まで運ぶことにする。

「ここですか?」
「はい、お願いします」
 ベッドの上に彼女を寝かせると、そのまま抱き着かれ、強引に唇を塞がれ、ベッドの中に引きずり込まれた。
「なっ……」突然のことに理解が追いつかない。
「どうして……こんな」
 俺は混乱していた。なぜ彼女がこんなことをするのか理解できなかったからだ。だが、彼女はそんな俺の様子などお構いなしといった様子で何度もキスをしてきた。今度は舌を入れてくる濃厚なもので、頭がボーッとしてくるほどだった。しばらくしてようやく解放されると、藤田さんと目が合った。その瞳にはどこか狂気じみたものを感じる。

「私……中村さんのことを好きになってしまったみたいです」
 そう言って微笑む彼女を見て背筋が凍るような感覚に襲われると同時に、頭の中で警鐘が鳴る。俺は慌てて彼女から離れようとするが、強く腕を掴まれているため身動きが取れずどうすることもできない。
「離してください!」俺が必死に叫ぶと彼女は不思議そうな顔をする。
「どうしてですか? 私たち両想いじゃないですか。中村さんのここ、もうこんなに硬くなってます」

 藤田さんはそう言いながら再び迫ってくる。その目は虚ろで焦点が定まっていないように見えた。まるで何かに操られているかのような感じだ。このままではまずいと思い全力で抵抗するが、やはり力が強く振りほどくことができない。そうこうしているうちに再び唇を塞がれてしまう。今度は先程よりも激しく貪るようなものだった。口内に侵入してきた彼女の舌が生き物のように動き回り、歯茎や上顎の裏など敏感な部分を刺激してくるため力が抜けてしまいそうになるほどだった。
「んちゅっ……じゅぷ……れろぉ……」
 唾液を流し込まれそれを飲み込むように促されるが抵抗できず飲み干してしまう。すると体が熱くなり下半身に血液が集まっていくような感覚に襲われた。次第に思考能力が低下していき正常な判断ができなくなってしまう。それほどまでに強烈な快感だった。
俺は必死に耐えようとするものの体は言うことを聞かずなすがままにされるしかなかった。


(続く)