スイミングスクールで知り合った人妻とのW不倫(1)

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 結婚してから職場と家庭の往復で、運動不足が気になり色々と調べた結果、大人向けのスイミングスクールに通うことにした。スポーツジムは人間関係が面倒そうという印象があるが、その点、スイミングスクールなら泳いでいれば基本的に誰とも話さなくてすむと思ったのだ。
 平日が休みの仕事をしているので、昼間の時間帯に通うことにした。その時間なら人も少なくて空いていそうだな、と思ったのもある。プールなんて学生の頃以来なので、初日は少しわくわくしながら行った。

 天井からの採光を取り入れた解放感のある屋内プールは目論見通り空いていた。
 予想外だったのは、俺以外の参加者がほとんど中高年の女性だったことだ。ウェブサイトで調べたときは、もっとアスリートっぽくトレーニングの一環として泳いでいるようなイメージだったのだが、もしかすると時間帯によるのかもしれない。
 おばさんグループに好奇の目で見られながら準備体操をしていると、なんだか居心地が悪い気もする。とはいえ我慢できないほどではない。なるべく人当たりよく、けれども馴れ馴れしくないように節度をもって接していたら、一カ月ほどで難なく打ち解けた。

 特にその中でも千春さんという女性とは親しく会話するようになった。積極的に話しかけてくるでもなく、かといって無視するわけでもない。心理的な負担にならない適度な距離感で、けれども気が付くと視界にいて目が合うと微笑んでくれる。
 彼女は俺より少し年上で、30代後半くらいだった。髪はショートカットで化粧っ気はあまりないが、よく見ると顔立ちは整っている。どちらかというと痩せ型だが胸は目立って大きく、くびれたウエストからヒップへのラインも魅力的で目のやり場に困るくらいだった。

 彼女と親しくなったことで、プールに通うのがますます楽しくなった。仕事以外の人間関係に飢えていたのかもしれない。
「ねえ、和幸くん。今度一緒にランチに行かない? いいお店があるんだけど」
 千春さんがそう言って食事に誘ってきたのは、知り合ってから一カ月半ほど経った頃だ。
 俺は少し戸惑ったが、すぐに笑顔で応じた。彼女は俺にとって数少ない親しい女性だし、何より誘われて嬉しかった。
「じゃあ、今週の水曜日はどう? スイミングスクールが終わった後で」
「はい、大丈夫です」二つ返事で了承すると、
「よかった、楽しみにしてるね」そう言って千春さんは笑顔で手を振って帰っていった。

◆◆◆

 約束の水曜日、スイミングスクールの後、千春さんと連れ立ってプールを出た。
 いつもはスイミングスクールという環境の中で、できるだけ意識しないようにしていたが、こうして二人きりになると改めて彼女のスタイルの良さを実感する。俺は少し緊張しながら千春さんの案内で店に向かった。
 そこは駅から少し離れた場所にあるイタリアンレストランだった。内装も洒落ていてフォーマルすぎない雰囲気がいい。客層は幅広いが、どちらかというと落ち着いた年齢のカップルが多いようだった。テーブル席に通されたのでメニューを彼女に渡して向かい合わせで座った。

「ここね、パスタが美味しいのよ」と千春さんが言った。
「そうなんですか、じゃあ俺はそれにしようかな」
「うん、私もそうしよう。あとね、このお店はデザートも美味しいのよ」
 彼女はメニューをテーブルの脇に置いて店員を呼ぶと、手慣れた感じで注文をした。俺はパスタを大盛にするかどうか聞かれたので断り、コーヒーとチーズケーキを頼んだ。

 ほどなくしてパスタが運ばれてきた。なるほど確かに美味しそうだ。
「ん、美味しいですね」と俺が感想を言うと、千春さんは嬉しそうに笑った。
 食事の間も会話は弾んだ。彼女は聞き上手で話題が豊富だったし、俺の話にも丁寧に相づちを打ってくれるのでとても話しやすかった。俺は普段よりも饒舌になり、ついつい自分の仕事や生活のことを色々と話してしまったが、彼女は興味深そうに聞いてくれた。

 彼女もまた、一児の母であり旦那さんとの仲があまりよくないこと、子供も手がかからなくなってきたのでダイエットもかねて水泳を始めたことを教えてくれた。
「そうだったんですか。いや、すごいですね千春さんは」
「ううん、そんなことないよ」と彼女は照れ笑いをした。
「でも、やっぱり子供を育てるのって大変だし、それに旦那も全然頼りにならないしね」
「そうなんですか?」
 俺は思わず聞き返してしまう。
「そうなのよ。もうね、本当に何もしてくれないの。そのくせ私が何かしてもそれを当然だと思ってるし」

「それは……確かに嫌ですね」俺は苦笑いを浮かべながら相槌をうつ。
「自分は何もせずに文句ばっかり。だから、もう最近はあんまり話もしてないかな」
「なるほど、そういうものなんですね」
「うん、でも仕方ないよね。そういう人を選んだのは私なんだし。まあ、子供がいるから離婚までは考えてないけどね」
 彼女はそう言って笑うと、それに最近は和幸くんと会うのが楽しみだから旦那のことは腹も立たないの、と付け加えた。

 千春さんの言葉に戸惑いつつも「ありがとうございます」と素直に感謝の言葉を述べる。
 俺にとっても千春さんとの会話は、職場や家庭といった社会的な立場から離れて自由に楽しめる時間だったからだ。そして同時に、彼女が俺に親近感を抱いてくれていることを嬉しく思った。
 食事を終えて店を出る頃には、すっかり打ち解けて打ち解けた感じになっていたので、そのまま二人で駅の方に向かって歩いた。

「ねえ、和幸くん。今日はこの後も時間大丈夫?」と千春さんが聞いてくる。
「はい」と答えると、千春さんが「じゃあ、もう少し一緒にいようよ」と少し甘えたような口調で言うので、俺たちは駅の周りをぶらぶらと散歩することにした。
 しばらく歩くと、千春さんが「ねえ」と言って俺の手を取った。「手をつないでもいい?」と彼女は少し恥ずかしそうに言う。俺はちょっと驚いたが、すぐに笑顔になってうなずいた。千春さんの手は暖かくて柔らかく、そしてしっとりとしていた。そのまま俺たちは手をつないで歩き続けた。時折彼女がこちらを見上げて微笑むたびに胸が高鳴った。

 それからは取り留めのない話をしながら歩いたり、書店や雑貨屋を見て回りながらすごした。さすがに往来の多い場所では互いに既婚者なので手を繋ぐことは控えたが、そうでなければ彼女の手は俺の手の中にあったし、俺もそれを意識して心地よい親しみを感じた。
 別れ際になって千春さんが少し名残惜しそうな様子で「ねえ……今度また二人で会わない?」と言うので、俺は迷わず「はい」と答えた。「ほんと? よかったぁ」と彼女は嬉しそうに笑い、俺も自然と笑顔になる。久々に親しい女性ができたことが嬉しかったし、何よりも彼女と一緒にいるときに感じる安らぎがとても心地よかったのだ。

 こんな時間がずっと続けばいいのに、と思っていると千春さんが「じゃあ、またスクールでね」と耳元で囁いて、そのまま俺の頬に軽くキスをした。
 一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに状況を理解して顔が熱くなるのを感じる。千春さんも俺と同じかそれ以上に赤くなった耳で悪戯っぽく微笑むと「約束だからね」と言って手を振り立ち去るのだった。


(続く)