友人に内緒で友人の母親と(1)

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 いつから互いを男と女として意識していたのか、というのは悩ましい問題だ。

 彼女でオナニーしたことはあったし、彼女がお風呂上がりの俺の身体をじっと見ていたこともある。
 ただ、それらは相手そのものを性の対象として見ていたというよりは、お互いを「人妻熟女」や「年の腫れた若い男」といった、あくまでも属性で認識して欲情していただけなのではないか、という気もする。

 ただ自分のことに関して言えば、彼女を「友人の母親熟女」ではなく「喜代子さん」という一人の女性として認識した上で、性の対象として意識するようになったのは、たぶん彼女の家でクッキー作りを手伝ったときだったと思う。

 クッキー生地の硬さの目安として、彼女が「耳たぶくらいの柔らかさで」と言ったのだ。
 俺の耳たぶはあんまりなくて、しかも柔道部なので結構硬めだ。
 俺のはあんまり参考にならないみたいです、と冗談めかして言うと、喜代子さんも俺の耳たぶを触り、二人で硬いねえ、と笑いあう。

「じゃあ、おばさんのを触ってみて」
 そう言った彼女の耳たぶに触れたその柔らかさを、今でも覚えている。
 触られた瞬間の彼女の「あ……」という呟きと、くすぐったそうに身体を捻った仕草も。

 それまでにもちょっとしたスキンシップはあった。
 例えば「久志くんて柔道部なんだ、がっちりしてるね」と言いながら肩を揉まれたり。
 俺も調子に乗って力瘤を見せて、それを彼女が触ったり。逆に彼女の柔らかい二の腕をふにゅふにゅと揉んで、おっぱいと二の腕の感触が同じだなんて俗説があったなあと思いを馳せたり。

 でもそういうのは、なんというか友達同士のふざけ合いみたいな感覚で、女性らしい身体の柔らかさを感じつつも、なぜか彼女自身を女性としては意識していなかったのだ。

 もしかすると人間には、そういう本能みたいなものがあって、俺の無意識が彼女を性交の相手から除外していたのだろうか。
 それとも彼女自身があくまでも自然体で接していたから、俺は友人の母親に邪な情欲を抱くことがなかったのか。
 もしも彼女が俺を誘惑しているような素振りを見せていれば、俺はもっと早く彼女に女を意識していたのか。

 なんにせよ、彼女の耳たぶに触れて以来、俺は彼女を「性の対象」として意識し始めた。
 たぶん、そのときの彼女の反応が、母としてコントロールされたものではなく、無意識のものだったから。
 彼女が友人の母親である前に一人の女であるということに、俺はようやく気が付いたのだ。

 そして喜代子さんも、それ以来、意識してか無意識にか、俺を誘惑するようになった。
 具体的には、身体のラインがくっきりとわかる衣服を着ていることが多くなり、スキンシップはボディタッチへと変わった。
 学年が変わっても相変わらず、俺は友人の家に通い喜代子さんとの仲を深めていった。

 他愛ない雑談のつもりで「彼氏とかいるんですか」と聞いたことがあった。
「そんなの聞いてどうするの?」と喜代子さんは悪戯っぽく笑っていた。
 その反応で俺は、彼女が俺に対して「少なくとも恋人がいるという可能性そのものを否定しはしない」という価値観の持ち主であることを、気取らせようとしていると感じた。

「結婚もして息子までいるのに、こんな話題なんてふしだらな母親かしらね」と笑いつつも満更でもない雰囲気。
 そこには、久志くんは私のことを、友人の母親ではなく一人の女として見れるのかしら、という言外の意味が込められている気がした。

 喜代子さんはそのとき、俺に対してはっきりと「女」を見せていた。
 だから俺も、とりあえずは彼女の誘惑に乗る形で、冗談めかしてではあったが彼女に交際を申し込んだ。
 彼女は「嬉しいわ」とはにかんだように笑った。その笑顔は普段よりも幼く見えて、それがとても可愛らしく見えた。

 このときは、喜代子さんが俺をからかっているだけかもしれなかったので、敢えて深くは追及せずに
「じゃあこれからは二人きりのときは喜代子さんって呼びますね」
「うん、私も久志って呼ぶわ」
 なんて言って二人で笑い合った。

◆◆◆

 冗談なのか本当に付き合っているのか曖昧な状態は、俺たちに猶予と言い訳を与えてくれた。だから俺と喜代子さんはより一層、仲を深めていけた。付き合っているから彼女の胸を触って揉んでも許される、冗談だから彼女の胸を愛撫しても不貞関係ではない。
 彼女はたぶん、俺が彼女に追いつくまで待っていてくれたのだろう。その上で俺に選択権を委ねてくれた。

 喜代子さんの優しさに甘えて、俺は彼女との関係を決めるのを先送りしていた。そして曖昧な交際関係が始まって二ヶ月ほど経ったある日、俺は友人の家、つまり彼女の家に泊まった。

「ねえ久志、そういえば私たち付き合い始めてそろそろ二ヶ月ね」
 友人はお風呂に入っている。ソファーに並んで座りくつろいでいると、彼女がそんなことを言った。 
 襟の大きく開いた服の上からは、彼女の豊満の胸の谷間とそれを包み込む黒い下着が見える。

 喜代子さんは俺が泊まりに来るたびに下着を新調しているようだった。それは決して派手なものではなく、むしろ落ち着いたデザインのものだ。でも、その下着が俺を挑発するために選ばれているのは明らかだった。
「そうですね」
 俺は喜代子さんの胸の膨らみにばかり気を取られていた。そして、それを意識していることは彼女にバレバレだろう。

「同級生の女の子と浮気なんてしてない?」
 喜代子さんは俺の耳元に口を寄せて囁いた。彼女の吐く息の温度を感じられるほど近くて、俺は思わず生唾を飲んだ。
「してないですよ」
 もしも俺たちが交際しているのなら、既婚者である彼女は浮気どころではないわけだから、俺たちの会話はあくまでも冗談だ。
「俺が愛してるのは喜代子さんだけです」
 だからこんなことが言える。
「嬉しいわ。私も久志を愛してる」

 喜代子さんは俺の肩に頭を乗せた。彼女の髪から甘い匂いに俺は頭がくらくらとした。
「……ねえ久志、キスして?」
 喜代子さんは目を瞑った。その長い睫毛が微かに震えているのがわかる。
 俺はゆっくりと顔を近づけて唇を重ねた。柔らかい唇の感触と彼女の体温を感じることができた。

「んっ……ちゅっ……」
 彼女は俺の首に腕を回し、さらに強く唇を押し付けてきた。俺もそれに答えるように彼女の背中に手を回す。
 喜代子さんの舌が伸びてきて俺の歯茎に触れた。俺はそれを受け入れるように口を開くと、彼女の舌が口内に侵入してきた。

「んふっ……ちゅぱっ……んんっ」
 喜代子さんは俺の舌に自分のそれを絡ませてくる。唾液を交換し合うような激しいディープキスに自分の立ち位置が解らなくなる。
 俺は彼女の腰に手を回し抱き寄せた。喜代子さんも俺の首に回す腕に力を込めて身体を密着させる。
「ん……はぁ……」
 やがてどちらからともなく口を離すと、二人の間に唾液の橋がかかった。

「久志は私とのキス好き?」
「はい、好きです」
 俺は正直に答えた。
「私もよ」
 喜代子さんは再び俺に口づけをした。今度は軽く触れる程度の優しいものだったが、それでも十分すぎるほど気持ちが良かったし、彼女の柔らかい唇の感触に興奮した。

「……もっと欲しい?」
「はい」
 もっと、という言葉が何を意味するのか、少しだけ迷ったが即答していた。
 喜代子さんは俺の言葉を聞いて嬉しそうな微笑みを浮かべた。そしてもう一度唇を重ねる。今度は先ほどよりも長く深いキスだった。お互いの口の中を激しく貪る。

「ん……ちゅぷ……」
 喜代子さんが俺の頭を両手で抱えるようにして固定し、さらに激しく舌を動かし始めた。彼女の柔らかい舌が俺の歯茎の裏や上顎をなぞるたびにゾクゾクとした快感に襲われる。俺も負けじと彼女の舌に自分のそれを絡ませた。
「んっ……んむ……」
 喜代子さんの口から吐息混じりの甘い声が漏れて、それがさらに俺の興奮を高めていった。
「はぁ……久志ぃ……」
 切なげな声で俺を呼ぶと再び唇を重ねてきた。俺はそれに応えるように彼女の背中に手を回し強く抱きしめた。お互いの身体が密着し、柔らかい胸が潰れて形を歪めているのがわかった。その感触だけで頭がクラクラするようだったが、それ以上に喜代子さんの身体が発するフェロモンに夢中になっていた。

「んんっ……ぷはぁ……」
 喜代子さんは俺の股間に自分のそれを押し当て、いやらしく腰をくねらせる。その刺激だけで俺のものは完全に勃起してしまった。それを悟られないように腰を引いたが、彼女は逃さないとばかりにさらに強く押し付けてきた。
「ねぇ久志……もう我慢できないのぉ……」
 喜代子さんは潤んだ瞳で俺を見つめると、そのまま体重をかけて押し倒すようにしてソファーに倒れた。そして馬乗りになって俺を見下ろしながら服を脱ぎ捨てていく。

「……見て……」
 喜代子さんは下着姿になると、見せつけるようにポーズをとってみせた。上下お揃いの黒いレース素材でできており、彼女の白い肌をより美しく際立たせている。
「ねえ、私って久志から見て女として魅力的?」

 喜代子さんは自分の全身を見せつけるかのように、ゆっくりとした動作で身体をしならせると、俺に向けて挑発的な視線を投げかけてきた。その淫靡な仕草に俺はごくりと生唾を飲み込むことしかできない。
「ほら、答えて」
 喜代子さんは妖しく微笑むと再び俺に迫るようにして顔を近づけてきた。その瞳には淫靡な光が宿っていて、俺はその瞳に吸い込まれそうになる感覚に襲われた。彼女の甘い匂いが鼻腔を刺激し、思考能力を奪っていくようだった。

「とても魅力的です」
 俺がそう答えると彼女は満足そうに微笑み、そして俺の首筋に舌を這わせた。生暖かい感触に背筋がゾクッとしたが不思議と不快感はなかった。ささやかな違和感は快楽をより引き立てるのかもしれない。

「そうよね、久志は友達のお母さんとキスをして、おちんちんをこんなにしてるものね」
 喜代子さんは耳元で囁くようにそう言うと、俺の股間をズボンの上から優しく撫でた。その刺激だけでビクッと反応してしまう。
「こんなに大きくして……久志のおちんちんは今どうなってるのかしら?」
 喜代子さんは俺の耳たぶを甘噛みしながら、ゆっくりとズボン越しにそれを扱くような動作を繰り返す。焦らすようなその手つきに自然と腰が動いてしまう。

「ふふ、もう我慢できないって顔してるね」
 彼女が俺の服を脱がしにかかろうと、シャツのボタンに指をかけたところで、友人がシャワーから出てくる物音がした。

「……ふふ、出て来ちゃったわね」
 お互いに想定していたので慌てることはなかった。
 喜代子さんは身体を離すと何事もなかったかのように服を着始め、俺も手早く乱れていた衣服を整える。

「おまたせー」
 友人がバスタオルで髪を拭きながらリビングに入ってきた。俺と喜代子さんは不自然にならない程度に距離をあけて座り直していた。
「おかえりー、じゃあおばさん、俺もお風呂いただきます」
 俺がそう言うと、友人もにへらと笑った。
「おうっ、早く一緒にゲームの続きやろうぜ」

 友人がテレビの前に座り、喜代子さんも「じゃあ私はお夕飯の用意しようかな」とキッチンに引っ込んだ。
 俺は友人に見えないように喜代子さんへ「行ってきます」と目配せをする。喜代子さんもそれに応えるようにウィンクをしてきた。その仕草がとても可愛らしく見えた。


(続く)