早朝ランニングで知り合った人妻と雨宿りのように求め合う(1)

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 運動不足解消のために早朝ランニングを始めた。ジムに通うことも考えたが、あいにく近場にそんな気の利いた施設はない。代わりに広めの公園と交通量の少ない田んぼの間を通る道はあるので、その辺りを走ることにした。
 先人の知恵に寄れば、運動習慣のない人間が年をとってから始める運動は、身体が悲鳴を上げるらしい。会社の先輩が面白い姿勢でそんなことを言っていた。というわけで最初はウォーキングを交えながら、徐々に運動強度を上げていった。40代に突入した身体はまだどうにか要求に応えてくれるようで、1ヵ月も続けると、朝の新鮮な空気を吸いながら走るのを気持ちいいと感じるようになっていた。

 習慣的に走るようになって知ったのは、早朝の時間は意外と散歩やランニングをしている人が多いということだ。自然とすれ違うときに会釈をするような、ゆるい連帯感で繋がった人間関係が形成された。
 中でも楽しみにしているのが、同じくランニングをしている年上の女性との挨拶だ。年齢は50代くらいだろう。大人びた余裕を感じる所作と、優しくも少し寂しそうに見える笑顔が魅力的な年上の女性だ。スレンダーながらもふくよかな胸の膨らみは、十人並みというには他の九人の肩身が狭くなるようなサイズだ。おそらく既婚者だと思う。ランニングコースで頻繁に出会うので、ついつい声をかけてしまう。

「おはようございます」
「あら、佐藤さん。おはようございます」
「今日もお早いですね」
「ええ。なんだか目が覚めちゃって」
 そんな短い会話を交わすだけで胸が弾むのだから安上がりなものだ。一度、話の流れで彼女の名前を聞いたときがある。栗橋といいますと教えてくれたときの響きを、今でもはっきりと思い出すことができる。そのときの彼女の笑顔もだ。そのときは年の差や立場も考えずに胸が高鳴っただけだったが、後になってみれば、僕はあのとき既に栗橋さんに恋をしていたんだろう。その日以来、朝に栗橋さんとすれ違うのが楽しみになった。

◆◆◆

 その日は朝から鉛色の雲が空を覆っていた。今にも雨粒が落ちてきそうな天気だったが、僕は構わずにランニングシューズを履いて家を出た。どのみち汗をかくから帰宅してシャワーを浴びるのだ。多少雨に降られたところでどうということはない。
 いつものランニングコースは、いつもと違い人通りがほとんどなかった。こんな天気だから当然といえば当然だ。田んぼに挟まれた道を抜けて、季節外れの桜並木を抜け、橋の上に差し掛かったところで栗橋さんの姿を見つけた。

 一瞬、幻覚でも見ているのかと思った。自分のことを棚に上げてなんだが、今日はランニング向きの天気ではない。
 向こうはまだ僕には気付いていないようだ。速度を落とした僕と彼女の距離が縮まっていく。あと2メートルほど、といったところで彼女は僕に気が付いた。
「あら、佐藤さん。おはようございます」
「おはようございます」
 彼女は少しだけ驚いたように僕に挨拶をしたが、それは不思議なほどいつも通りの挨拶だった。僕は少し緊張しながら返す。

「こんな天気でも走られるんですね」
「ええ。なんだか目が覚めちゃって」
 栗橋さんは笑ってそう言った。僕も笑って答える。
「僕もです」
 それからなんとなく会話は途切れてしまう。僕は何か世間話でもしようと話題を探すが、こういうときに限って何も出てこない。ランニングコースで栗橋さんと出会ってから、初めて気まずい思いを味わうことになった。

 二人で並んで走っていると次第に雨脚が強まってくる。栗橋さんは気にした様子もなく走り続けるが、僕は思わず立ち止まった。
 つられて栗橋さんも同じように足を止めて空を見上げる。そうこうしているうちに、僕らの行く手を阻むように雨脚がどんどん強くなっていく。
「これはちょっと厳しいですね」
「ええ。どこかで雨宿りでもした方が良さそう」
 栗橋さんはそう同意しつつ、ふと思いついたように、
「そういうえば、近くに納屋があるんです。そこで雨宿りしませんか?」と突拍子のないことを言う。

「納屋、ですか?」
「ええ、空き家なんです。確かこの辺りに」
 栗橋さんは少し周囲を見まわすと、僕を先導するように走り出した。その横顔は、どこか楽しげだ。僕は半信半疑のまま栗橋さんの後を追うが、彼女は足を止める様子がない。そのまましばらく走ると、そこには確かに納屋があった。おそらく長く使われていない古い建物だ。木々や草に囲まれて周囲に溶け込んでおり、言われなければ決して見つからなかっただろう。

◆◆◆

 雨を凌ぐにはうってつけだが、さすがに持ち主に無断で中へ入るのは気が引ける。
 それでも栗橋さんは躊躇うことなく扉に手をかけると、ぎいぃという音を立ててそれを開いた。
「どうぞ」
 誘われるままに扉をくぐる。中は薄暗いが十分に雨を凌げそうだ。彼女はすでに奥まで移動し、窓を少し開けてこちらを振り返った。濡れた前髪が額に張り付き、そこから水滴が滴っている。薄手のトレーニングウェアは肌に張り付いて身体のラインを浮き彫りにしていた。

 僕は思わず目を逸らす。
「どうしたんです? 入らないんですか?」
「え、ええ」
 そんな僕の様子に、栗橋さんは不思議そうな顔でそう尋ねてくる。
 僕はおずおずと中に入る。後ろ手に扉を閉める直前、外で誰かが僕らのことを見ているような気がしたが、きっと気のせいだろう。

「この辺りは、こういう納屋がたくさんあるんですよ」と栗橋さんは言った。
「私はここしか知りませんけど、普通に生活してると案外気が付かないだけで、こういう空き家になった使われていない納屋は、あちこちにあるそうです」
「へえ、そうなんですか」
 僕は適当に相槌を打つ。あまり会話が頭に入ってこない。栗橋さんの身体を見るのが気まずくて視線を下に落とす。不意に心臓の鼓動が大きくなっているのを自覚した。そんな僕の様子を見て、栗橋さんがくすりと笑みをこぼす。

「気になりますか?」
「え、いや……その」
 僕は慌てて視線を逸らそうとするが、栗橋さんは僕の方に身を寄せて、下から覗き込むように見上げてきた。薄手のトレーニングウェア越しに彼女の体温を感じる。濡れた髪から漂う甘い香りに頭がくらくらした。彼女はそのまま僕に身体を密着させると耳元で囁くように言う。
「いいですよ。見ても……」
 その言葉は甘い誘惑だった。理性では拒否すべきだと分かっているのに、身体は勝手に動いていた。僕は誘われるままに彼女の身体を見下ろす。

「ほら、どうですか……?」
 栗橋さんの声はどこか弾んでいた。僕はゆっくりと視線を下に落としていく。まず目に入ったのは、大きく前に突き出した胸だった。くっきりと浮き出た双丘がトレーニングウェアを押し上げている。その豊かな膨らみは僕の視線を掴んで離さなかった。彼女が身動ぎする度にそれが形を変える様は官能的ですらあった。
 さらに下へと視線を向ける。引き締まったウェストからヒップにかけてのラインが美しい曲線を描いている。太腿の付け根に食い込んだショーツは、彼女の秘部の形を露わにしているように見えた。

「ふふ……どうですか?」
 栗橋さんは挑発的な笑みを浮かべると、見せつけるようにポーズを取る。僕は思わず生唾を飲み込む。心臓が激しく脈打っていた。いつの間にか僕の呼吸は荒くなっていた。身体が熱い。頭がうまく働かない。まるで熱に浮かされているようだった。
 彼女はそんな僕の様子を楽しげに眺めていたが、やがてそっと僕の手を取るとその指先を自らの下腹部へと導いた。

 指先が彼女の柔らかな茂みに触れる。。
「あっ……」
 思わず声が出てしまう。栗橋さんは妖しく微笑むと、そのままゆっくりと手を動かし始めた。指先が割れ目をなぞる度にぴちゃりと水音が響く。そこはもうすっかり潤っていた。僕は無意識のうちに彼女の名前を口にする。
「……栗橋さん」

「……いいですよ……」
 彼女はそう言うと、僕の手をさらに茂みの奥へと誘導した。指先がぷっくりと膨らんだ突起に触れる。ふいに栗橋さんの口から甘い吐息が漏れた。僕はその反応を見て、そこが彼女の最も敏感な部分であることを悟った。
「ここ……もっと触ってください……」
 彼女は熱っぽい瞳で僕を見つめる。その瞳には隠しきれない情欲の色が浮かんでいた。僕はゴクリと唾を飲み込むと、ゆっくりと指を動かした。最初は優しく撫でるだけだったが、次第にその動きが激しくなるにつれて、彼女の口からも熱い吐息が漏れ始める。

「んっ、あっ……ああんっ」
 栗橋さんの口から漏れる声はどんどん大きくなっていく。僕はそれを聞きながらも手を動かすのをやめなかった。むしろ彼女の反応を見ながら、より感じる場所を探り当てていく。
「はぁ……あんっ……ああっ」
 やがて彼女は身体を弓なりに反らせると、一際大きな声を上げて絶頂に達した。

◆◆◆

 栗橋さんはしばらくの間荒い呼吸を繰り返していたが、やがて僕の首に腕を回して抱き着いてきた。
「ふふ……気持ちよくなっちゃいました……」
 耳元で囁かれる言葉に背筋がぞくりとする。僕は何も答えられなかった。栗橋さんはそんな僕の様子を見て小さく笑うと、さらに強く抱き締めてきた。彼女の体温を感じるほど、心臓の鼓動が激しくなる。頭がくらくらした。思考がまとまらない。ただ目の前にいる女性を抱きたいという欲望だけが頭の中を駆け巡っていた。

「……僕も昔、何かで読んだことがあります」
 無意識にそう口にしていた。栗橋さんが静かな湖面のような瞳で僕を見つめる。
「使われず空き家になった納屋に、人知れず火をつける男の話です」
 僕はもう一度、彼女の茂みに指先を這わせる。そこはもうすっかり熱く湿っていた。
「あっ……」

 ゆっくりと指先を動かして栗橋さんを刺激する。そのたびに彼女は甘い吐息を漏らした。やがて彼女が僕の下腹部に触れたところで僕は手を引いた。そして代わりに自らの欲望の象徴をさらけ出す。それは限界まで怒張して血管が浮き出るほどに勃起していた。今まで経験したことがないくらい硬く反り返り、先端からは透明な液体が溢れ出している。栗橋さんの視線がそこに釘付けになるのが分かった。
「男の人の……久しぶりに見ました」
 彼女はごくりと唾を飲み込むと、恐る恐るといった様子でそれに手を伸ばした。指先が触れると、びくんという感覚とともに快感が走る。僕は思わず腰を引いてしまった。

「痛かったですか?」と栗橋さんが不安げに言うので、僕は慌てて首を振った。
「いえ、大丈夫です」と答える声が上ずっているのが分かる。実際痛みはなかった。ただ敏感になりすぎているだけだ。
「良かった……」と栗橋さんは安堵した表情を浮かべる。そしてそのままゆっくりと手を上下させ始めた。最初は優しく触れるだけだったが、やがてその手つきは大胆になっていった。裏筋やカリ首といった敏感な部分を刺激する動きに変わるにつれ、快感もより強くなっていく。
「すごい……どんどん大きくなっていきます」
 彼女は感心したように言うと、今度は舌を出して先端を舐め始めた。ざらりとした感触が走り、背筋にぞくりとしたものが走る。

「ん……気持ちいいですか?」
 栗橋さんは上目遣いでこちらを見上げると、さらに激しく頭を動かし始めた。じゅぽ、という音が耳に届く。彼女の口の中はとても温かくて柔らかく、それでいて強く吸い付いてくるような感覚があった。時折歯が当たるのがまた刺激的だ。
「はぁ……ああ……」僕は無意識のうちに声を漏らしていた。頭がぼうっとする。何も考えられなかった。ただひたすら快感に身を任せるだけだ。

 やがて限界が訪れようとしたとき、彼女の動きが止まった。
「……雨でも納屋は燃えるんでしょうか?」
「たぶん、焼かれた納屋は、納屋ではなくなるんだと思います」
 僕はそこで言葉を区切ると、栗橋さんを抱き寄せた。彼女の体温を感じるほどに、身体の奥底から熱い衝動が込み上げてくるのを感じる。それはもはや抑えきれないところまできていた。

「…………」
 彼女が僕の耳元に口を寄せ、甘く囁いた。僕は何も考えられずにただ小さく頷くことしかできなかった。
 栗橋さんが僕の手を引いて納屋の奥に誘う。壁に手をつくようにして立ち、大きなお尻が突き出されているような形になる。彼女の白い身体が薄暗闇の中に浮かんでいた。僕はごくりと生唾を飲み込む。
「来てください……」
 栗橋さんが肩越しに振り返るようにして言った。その瞳には期待と不安が入り混じっているように見えたが、その奥には確かな情欲の色が見て取れた。

 僕は彼女の腰を掴むとゆっくりと挿入していく。ずぶずぶと飲み込まれていく感覚とともに強烈な快楽が襲ってくる。それは今まで経験したことがないほどのものだった。まるで脳天を突き抜けるかのような衝撃に一瞬意識を失いかける。
「あっ……ああっ!」
 栗橋さんの口から艶めかしい吐息が漏れる。僕はゆっくりと抽挿を始めた。最初はゆっくりだったストロークは次第に激しさを増していき、やがてパンパンという音が響き渡るほどになっていた。

「あっ! ああん……いいっ……」
 彼女は甘い声で鳴きながら身体を弓なりに反らせる。その姿はとても美しく見えた。僕は彼女の細い腰を掴みながら夢中で腰を打ち付ける。結合部からは愛液が流れ出し、太腿を伝って床に滴り落ちていた。
「ああっ、すごいです……もっと突いてぇ!」
 彼女はうわ言のように叫ぶ。僕はさらに激しく責め立てた。彼女の膣内は熱く、それでいてきつく締め付けてくる。まるで生き物のようにうねる襞が僕の一物を刺激した。頭が真っ白になり何も考えられなくなっていく。ただ目の前の女性を貪りたいという欲望だけが頭の中を支配していた。


(続く)