早朝ランニングで知り合った人妻と雨宿りのように求め合う(2)

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 梅雨が明けて夏が訪れる頃になると、僕のランニングは生活習慣の一部として定着していた。
 元々、運動に熱心なタイプではない。むしろ日差しの下で汗を流すのは苦手な方だ。会社の定期健康診断を無事に乗り越えたタイミングで止めてもよかったが、時間を朝から夕方に変えてまで続けている理由は、間違いなく彼女の存在によるとことが大きい。
「おはようございます」
 今日も栗橋さんは僕の姿を見かけて駆け寄ってくる。彼女もすっかりこの習慣に慣れたらしい。今では当然のように待ち合わせて二人並んで走っている。

 とはいえ実際に二人でランニングをするのは夕方だ。朝のランニングは口実に過ぎない。僕と栗橋さんはごく自然にランニングコースを外れると、そのまま僕の住むアパートに向かう。そしてシャワーも浴びずに抱き合うのだ。
「あっ……んっ、んんっ」
 栗橋さんは僕の首に腕を回して積極的に舌を絡めてくる。僕もそれに応えるように彼女の口内に舌を差し入れた。二人の唾液が混ざり合い、淫靡な音を立てる。しばらくの間互いの口腔内を貪り合った後、僕らはゆっくりと顔を離した。銀色の糸が伸びていき、やがてぷつりと切れた。栗橋さんは潤んだ瞳で僕を見上げている。その瞳には情欲の炎が灯っていた。僕はごくりと生唾を飲み込む。

「栗橋さん……いいですか?」
 僕は彼女の柔らかなお尻に手を伸ばしながら尋ねた。彼女は小さく頷いて僕を受け入れる体勢を取る。僕は彼女の背後に回り込むと、両手で乳房を鷲掴みにした。手に余るほどの大きさのそれを優しく揉みほぐしていく。硬くなった乳首を指先で転がすように弄ぶと、彼女は甘い吐息を漏らした。
「んっ……あっ……」
 僕はそのまま手を下に滑らせていき、太腿の付け根へと持っていく。茂みの奥にある割れ目に触れると、そこはすっかり湿っていた。指先を挿入すると、まるで待ち構えていたかのように中へと迎え入れてくる。僕はゆっくりと指を動かす。最初は優しく撫でるだけだったが、やがてその動きは激しさを増していった。

「あっ……そこっ……んんっ」
 彼女は喘ぎ声を上げながら身体をよじらせる。その表情はすっかり蕩けきっており、快楽に溺れているようだ。膣内からはどんどん蜜が溢れ出してきているのが分かる。僕はさらに激しく責め立てた。彼女の声が一段と大きくなる。
「もうだめです……イっちゃいそうです」
 彼女は切羽詰まった声で叫んだ。僕はラストスパートをかけるべく、さらに激しく指を動かす。膣内がぎゅっと締まり始めたところで指を引き抜くと、今度は僕のモノを押し当てた。彼女の方から腰を動かして挿入を促してくる。それに応えるように一気に貫いた。

「ああっ! すごいっ!」栗橋さんは歓喜の声を上げると背中を大きく仰け反らせた。結合部からは大量の液体が流れ出しているのが分かる。
「あぁん……もっとぉ」彼女は甘えたような声で囁くと、自ら腰を動かし始めた。その動きに合わせて膣内の締め付けが変わり、新たな刺激を与えてくる。僕の一物は今にも限界を迎えようとしていた。
「栗橋さんっ……もうっ」
 僕が限界を訴えると彼女はさらに動きを速めてきた。そして次の瞬間には熱いものが迸り出る感覚があった。同時に彼女も体をビクビクと痙攣させる。結合部からは白濁した液体が溢れ出していた。僕はぐったりと脱力する彼女の身体を抱き寄せるように支えるとそのまま唇を重ね合わせた。

◆◆◆

 詳しくは聞いていないが、栗橋さんは旦那さんとは長らくセックスレスらしい。ランニングを始めたのも、性欲の捌け口を失いかといって不倫の機会もなく、運動で発散するためだったというから皮肉な話だ。求めているときは手に入らず、求めるのをやめたら手に入るのは、なにかそういう法則でもあるのだろうか。
「あっ……ああっ!」
 栗橋さんは騎乗位で激しく腰を動かしながら喘ぎ声を上げている。結合部からは泡立った体液が流れ出し、シーツに大きな染みを作っていた。僕は下から突き上げるように何度も攻め立てる。彼女はその度に身体を大きく跳ねさせた。僕は彼女の胸に手を伸ばすと乳首を摘まんだり捻ったりする。そのたびに膣内がきゅっと締まって僕のモノを刺激した。

「ああん……それダメぇ」
 彼女は泣きそうな声で訴えるが、それが嘘であることは明白だった。その証拠に彼女は自ら腰を動かし続けている。結合部からは淫らな水音が響き渡っていた。僕はさらに激しく動くように促すと、彼女の乳房を鷲掴みにして揉みしだいた。柔らかな感触が手に伝わってくると同時に彼女が甘い吐息を漏らすのが分かる。
「あぁんっ……いいっ!」
 栗橋さんは大きな声で叫ぶと身体を震わせて絶頂に達した。膣内が激しく収縮する感覚に僕の一物も限界を迎えようとしていた。

 初対面の頃の大人しくて優しそうな印象はそのままに、二人きりの彼女は情熱的な一面も見せる。彼女にはどこか潜在的に新しい世界を求めるような好奇心がある。まるで夫以外の男性と姦通したことで開花したかのように、みるみる淫乱になっていった。
「んんっ……ちゅっ」
 栗橋さんが僕に覆い被さり唇を重ねる。僕の舌を口の中に迎え入れてくると、まるでフェラチオでもするかのように吸い付き始める。同時に膣内がぎゅっと締まり一物を締め付けるので、僕はその刺激で果ててしまいそうになる。だが彼女はそれを受け止めようと備えるかのように、僕の身体を強く抱きしめたまま離そうとしなかった。

「栗橋さん、……もう」
 僕がそう言うと、彼女は妖艶な笑みを浮かべたまま小さく頷いた。そしてより一層激しく腰を動かし始める。膣内が複雑な動きで収縮し、僕の一物を包み込むような感覚に頭が真っ白になる感覚に襲われた。
「んっ……ああっ!」
 僕はそのまま彼女の膣内に精を解き放った。同時に彼女も大きく背中を仰け反らせると全身を硬直させる。結合部からは収まり切らなかった白濁した液体が流れ出てきた。彼女はぐったりと脱力するように倒れ込んだ僕を優しく抱きしめてくれる。汗ばんだ肌が触れ合う感触すら心地よく感じられた。

◆◆◆

 セックスを終えた後、栗橋さんはいつも僕を優しく抱きしめてくれる。まるで母親が我が子を慈しむように、あるいは恋人が愛を確かめ合うように、その温かな抱擁は心地良いものだった。僕は栗橋さんの胸に顔を埋めながら彼女の心臓の鼓動を感じる。この温もりがあれば他には何もいらないと思えるほどだ。
「もうすっかり夏ですね」と栗橋さんが囁くように言った。僕は顔を上げて窓の外に目を向ける。外はすっかり日が高くなり、ガラス越しに起き始めた街の音が聞こえた。

「……そうですね」
「夏は好きですか?」
「はい、嫌いじゃありません」
「私は嫌いです。夏の暑さも、汗臭い男も、性欲丸出しの若いカップルたちも……」
 栗橋さんは訥々と言った。僕は思わず苦笑する。

「それは残念ですね」と返すと彼女も微笑み返してくれた。それから彼女は僕の肩に手をかけてゆっくりと顔を近づけてきたかと思うと耳元で囁いた。
「だから……あなただけが私の特別ですよ?」
 その言葉を聞いた瞬間、背筋にぞくりとしたものが走る。彼女がこのような物言いをするのはいつものことだ。その度に僕は戸惑いを隠しきれずに黙る。
 栗橋さんはふふと笑って身体を離す。そしてそのままベッドに腰掛けると頬杖をついてこちらを見た。その表情はとても楽しげだ。

「どういう意味でしょうか」
 僕が尋ねると、彼女は悪戯っぽく笑いながら言った。
「さあ? どういう意味でしょう?」
 栗橋さんは楽しげに目を細めると、ゆっくりとベッドから立ち上がり「お水いただきますね」と言う。その後ろ姿を見つめながら僕は小さく溜息をつく。まったくもって不可解な人だと思いつつも、そんな彼女をどこか憎めない自分がいるのだから。

 ふと窓の外を見ると、大粒の雨がガラスを叩き始めていた。
「通り雨かな」
 思わず呟いていた。今朝の天気予報では晴れだと言っていたはずだが外れたようだ。絶え間なく雨粒が叩きつけられる窓ガラス越しに外の様子を眺める。どんよりとした灰色の空が広がっているのが見えた。とはいえ西の空は明るい。きっと一時的なものだろう。間もなく止む。

「雨は、嫌いですか?」
 不意に後ろから声をかけられた。栗橋さんの声だ。僕は振り返りながら答える。
「ええまあ……好きではないですね」
「そうですね、私もです」と彼女は言った。その笑顔はいつもと変わらないはずなのにどこか寂しげに映るのは気のせいだろうか? 栗橋さんは僕の隣に立ち、同じように窓の外を眺める。

「でも、今は嫌いではないかもしれません」
「……僕もです」
「雨宿りしないと」
 栗橋さんは僕の方を向いて微笑む。その笑顔を見た瞬間、胸が締め付けられるような思いがした。彼女はそっと僕の手を取ると、指を絡めてきた。その感触はとても柔らかくて温かい。
「せっかくですから、もう少しこのままでいましょうか」
 彼女はそう言うと僕の肩に頭を乗せて身体を預けた。


(終)