還暦美夫人の満たされない飢えと渇きに愛欲を注げば(1)

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 出会い系サイトでメッセージを送ったその女性が、年齢をサバ読んでいることは最初から解っていた。別の出会い系サイトで見かけたことがあり、そこでは最終ログインから5年以上が経過しているのに、現在と設定年齢が同じだったからだ。
 設定年齢の自動更新はされないはずなので、当時の「50代半ば」という情報が本当だったとしても、現在の年齢は少なくとも60歳以上ということになる。それを承知で俺が彼女にメッセージを送りアプローチしたのは、よこしまな目的があったから、というわけでは全然なく、単純に年上の女性が好きで彼女に惹かれたからだ。

 保育園の頃に30代の保母さん相手に早めの初恋を経験した俺は、そのまま年を重ねるごとに好みのタイプの年齢も上昇していき、30代になった今では立派な熟女好きである。
 熟年女性の重ねた年相応の経験や知識はもちろん、出産適齢期を明らかに過ぎているにも関わらず、出会い系サイトで男を求める姿には、若い女にはない魅力を感じずにはいられない。

 歳を重ねることで性欲が落ち着き異性との触れ合いに興味をもたなくなる人は男女問わずいるだろう。むしろその方が生物としては自然かもしれない。
 だが一部の熟年女性は、閉経した後でも男性との肌の触れ合いを求め、享楽的なセックスに溺れる。生殖を目的としない、ただ快楽のためだけのセックスに耽る彼女たちを、俺は純粋にこの上なくエロティックだと思うし、それ故に欲情する。

 それはもしかすると、女性の写真やイラストを見て勃起するような、ある種の錯誤に起因しているのかもしれないが、俺にとってはどうでもいいことだ。
 推定還暦すぎで年齢をサバ読みし、出会い系サイトで男を漁るエロ熟女から届いた返信メッセージを読みながら、これから彼女とどうやって親しくなろうかな、と俺は返信に対するさらなるメッセージを考えるのだった。

◆◆◆

『いつも相談にのってくれてありがとう、最近は和也くんとやり取りするのが毎日の楽しみだよ』

 あれから順調に出会い系サイトの中でメッセージの応答を重ねて数日後、俺たちはメッセージアプリのIDを交換して、日常的にコミュニケーションを取るようになったいた。
 やり取りの過程で、彼女の年齢が本当は60代であることを明かされたが、そうだろうなと予想していたので別に驚かなかった。強いて言えば年齢のサバ読みを明かされたこと自体は意外だった。別にそのまま黙っていてもよかったのに。
 自分に都合よく考えれば、実際に会って男女の関係になる可能性を考慮して実年齢との乖離を伏せておくのは得策でないと考えたのかもしれない。会って話が違うと俺に嫌われる事態を避けたかったのだとすれば、脈ありといえそうだ。

 彼女の名前は紀子さんといい、年齢は60代前半、結婚しており子供は二人、どちらも独立して都内で一人暮らしをしているらしい。現在は旦那さんとふたりで暮らしている。夫婦関係は冷め切っているのだと聞いてもいないのに教えてくれた。
 夫婦間でのセックスは20年以上なく、旦那さんも紀子さんも外にパートナーを作り、お互いに暗黙の了解で不干渉を貫いている。よくわからないが、そういう夫婦関係もあるのだろう。

『和也くんは、今彼女とかいる? もしいないなら、私と会ってみない?』

 メッセージのやり取りを始めてしばらく経ったある日の昼前。紀子さんから来たそんなメッセージを見て俺は少し驚いた。確かにそろそろデートに誘ってみてもいい頃合いかと機会を伺っていたが、あちらから誘ってくるとは思わなかったのだ。
 これまでのメッセージのやり取りで彼女が十分に魅力的な女性であることは確認できていた。誘ってくる男に困ることはなさそうだから、敢えて彼女から誘ってくることはないだろうと思っていたのだが。

『はい、紀子さんがよければ是非お会いしたいです』
 とはいえ、誘われた以上は断る理由もない。俺はそう返信した。

『よかった!じゃあ今週の土曜日にどうかな?』

『大丈夫です、よろしくお願いします』

 その後メッセージのやりとりで詳細な時間と場所を指定して約束を取り付けた。

◆◆◆

 当日、待ち合わせの駅に降り立った俺は紀子さんの姿を探す。
「和也くん!」
 背後からかけられた声に振り向くと、年相応の上品な雰囲気の女性が立っていた。
「はじめまして紀子さん、お会いできて嬉しいです」
 俺がそう挨拶をすると彼女は笑顔で応えた。
「うん、私も。それじゃ行こっか?」
「はい」

 彼女の先導に従い、駅から少し離れたところにあるラブホテルへ向かう。
 ホテルの前に着くと紀子さんは慣れた手つきでパネルを操作し、適当に部屋を選ぶと鍵を受け取りエレベーターに向かった。俺もその後に続く。受付の人は多少訝しげな視線を向けてきたが、紀子さんが堂々としていたのですぐに興味を失ったようだ。俺もこんな場所で印象に残るのは避けたかったので助かった。

 部屋に入ると紀子さんが服を脱ぎ始めるので俺もそれに倣う。どうやら勿体ぶるつもりはないらしい。
 下着姿になったところで彼女の視線が俺の下半身に向いていることに気づいた。
「和也くん、もうそんなにしてくれてるのね」
 うっとりした声でそんなことを呟く。
「紀子さんがそれだけ魅力的だからですよ」
 俺は軽口を言いながらそそり立つ男性器を露出し、彼女に見せつけるように向き直る。

「そっか、じゃあ今日は私がたくさん気持ちよくしてあげるね」
 そう言って彼女は俺の股間に手を伸ばすと優しくそれに触れた。
 ゆっくりと上下に動かし始めるがそれだけでは刺激が足りないと思ったのか、今度は亀頭を手のひらで包み込むようにして撫で回してきた。その動きに合わせて次第に硬度が増してきた俺のモノを見て満足そうな笑みを浮かべると、今度は竿全体をマッサージするように揉んでくる。
「和也くんのこれ、すごく立派だね」
 そう言いながら彼女はさらに強く握りしめてきた。その刺激に思わず声が出そうになるがなんとか堪える。

 そんな俺の反応を楽しむかのように彼女は手の動きを加速させた。
 やがて完全に勃起したのを確認すると、今度はそれを口に含む。生暖かい口内の感触に包まれる感覚に腰が浮きそうになるほどの快感を覚えた。
「ん……ちゅぱっ……」
 音を立てながら頭を前後に動かし始める紀子さんを見て、俺も対抗するように彼女の秘所に手を伸ばす。ショーツの中に手を入れ割れ目をなぞるように撫でると、そこはすでに濡れており指先を動かすたびにクチュリという音が聞こえてくるほどだった。

「あっ……だめ……」
 彼女は口を離し抗議の声を上げるが形ばかりの抵抗だ。もちろん構わず続ける。
「んっ……やぁ……!」
 膣内への愛撫を続けるうちにどんどん溢れてくる愛液を潤滑油にして人差し指を挿入してみる。するとすんなり根元まで入ったのでそのまま抜き差しを始める。同時に親指で陰核を刺激することも忘れない。

 しばらく続けているうちに限界が近いのか、彼女の息遣いが荒くなってきた。それを察した俺はとどめとばかりに膣内の一番感じる部分を強く擦った。すると彼女は大きく体を震わせ絶頂を迎えたようだった。それと同時に大量の潮を吹き出す。
「はぁ……はぁ……」
 肩で息をしている彼女を見てそろそろ頃合いだろうと思いコンドームを装着しようとすると制止する声がかかった。
「和也くん、生で大丈夫だからそのまま入れて」

 そう言ってベッドに仰向けになる紀子さんを見て俺は一瞬躊躇したが、結局はそれに従うことにした。彼女の両膝の裏を抱えるようにして持ち上げ正常位の体勢を取るとゆっくりと挿入していく。十分に潤っているため特に抵抗もなく奥まで入ったようだ。
「全部入ったよ」
 そう伝えると紀子さんは嬉しそうに微笑んだ後、足を俺の腰に絡めてホールドしてきたのでこちらもそれに応えるように腰を動かし始める。最初はゆっくりだったが徐々にペースを上げていく。

 男女の肌と肌がぶつかり合う音と結合部から聞こえる水音が部屋に響く。その音に合わせて紀子さんの口から漏れる声も大きくなっていく。ほどなくお互い限界が近づいてきたようで、膣内の締め付けが激しくなるのを感じた俺は、最後に思いっきり奥まで突き入れ動きを止めると大量の精子を解き放つ。
 子宮口に押し付けられた先端から溢れ出した熱い液体を感じるたびに、彼女は身体を痙攣させ絶頂を迎えているようだった。
「和也くん……気持ち良かったよ」
「俺もです」
 しばらく余韻に浸った後、俺たちはシャワーを浴びてホテルを出た。

◆◆◆

「また会ってもらえる?」
 駅に向かって歩きながら紀子さんが尋ねてきた。
「もちろん、いつでも誘ってください」
 俺がそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。目じりの皺につい見惚れる。

「嬉しいな、和也くんならきっとそう言ってくれると思ってた」
 そう言って彼女は頬を染めて少し照れたように俺の手を取り指を絡めてきた。
「これからもよろしくね」
 そのまま駅に着くまで手を繋いだまま歩いた。改札を通る前に彼女の方からそっと手を離した。

 名残惜しそうに立ち止まり、上目遣いでこちらを見つめる姿は恋する乙女のようだ。年齢を重ね結婚をして子供が出来ても、彼女の人生にとって恋愛が占める価値は変わらないのかもしれない。そんな女である自意識を垣間見た気がして胸が高鳴る。
「和也くん、昨日は楽しかったね」
「そうですね、また時間が合えば会ってもらえると嬉しいです」
 俺がそう答えると紀子さんは満面の笑みを浮かべて頷いた。
「うん! 連絡するから待っててね」

 そう言って彼女は改札の奥へと消えていった。去り際に残した彼女の残り香が俺の鼻腔をくすぐる。その甘酸っぱい香りは俺の脳裏に鮮明な彼女の身体の記憶を呼び起こし、しばらく離れることがなかった。
「案外はやく、また会うことになりそうだな」
 俺はそう呟くと、今週の予定を思い起こしながら電車に乗り込むのだった。


(続く)